ここに一冊のエロ本が落ちていたとしよう。

 むろん此処は男の城と言ってもいいボクシングジム(最近はエクササイズやダイエットに良いと女性の進出も目ざましいが『あの』鴨川ジム)だ。例え話で無くともそのような状況に陥る可能性は高い。

 

 ある者はその本を見つけるなりその場にかが見込み、物凄い集中力と持ち前の働体視力でもってパラッと捲っただけでその内容を正確に把握し、誰の持ち物だとすら聞かずに我が物顔で己の懐にしまい込んでしまうだろう。(その場で読み続けないのは、元気過ぎる老人に見つかるとどうなるか熟知しているからだ)

 

 世界一の彼女を持っている(自称)と豪語するその男は、興味はあれど、本などで解消する必要はまるでないので、その本が落ちていると言う事実で、純情を絵に描いたような後輩の一人をからかうのかもしれない。

 

 目端の良く効く気の好いお人好しは、その本の持ち主が理不尽大王や悪のりガエルやステッキを振り回す元気過ぎる老人に見つかって困る思いをする前に、拾ってロッカールームなどでこっそり持ち主を探し出して返してやるのかもしれない。(しかし悪のりガエルが後輩の一人をからかていたとするならば、やはりその輪に当然と言う顔付で加わるのだろう)

 

 そのジャ=ーズ顔に似合わず、ざっくばらんな体育会系で中高学生と過ごしてきた彼は、案外そんな本が落ちているのなんて日常過ぎて、恥ずかしげもなく大声で落とし主を捜し、今時の若者とは思えない程奥ゆかしい先輩の顔を真っ赤に染め抜いてしまうのだろう。

 

 以上、例え世間では人目が憚れるような本でも、鴨川ジムでは(只一人を除き)なんの問題も無いと思われる。

 

 …………それが、普通のエロ本であった場合だが。

 

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うおっなんじゃこれわ?!」

「っ鷹村さん、耳もとで叫ばないで下さいっすよ〜。鼓膜が破けるじゃないっすか」

「うるせえ!!青木のくせに生意気なっ」

「鷹村さん、こんな人がごっちゃりしてる所で青木にヘッドロック掛けるのやめて下さいよ。問題の『ブツ』が破けるじゃないですか」

「ああ〜ん?んなもん破けたっていいじゃねーか。それとも木村、お前こう言うのに興味でもあんのかよ?」

「いや、俺はいいんですよ別に『これ』が破けても。しかしそうなると、あのどぎつ〜い『写真』が見えっぱなしになるだけっすからね(哀れな誰かが片付けるまでは)(その哀れな誰かは明言しないでおこう)」

「む?むう………」

「あれ?鷹村さん達そんな所でどうしたんですか?」

「んん?皆さんお揃いで、何か良い物でもあるんですか〜〜〜?」

「よ!一歩に板垣。お揃いでロードから御帰還か?お前ら本当にいっつも一緒なのな」

「そりゃぁ木村さん!!僕と先輩は熱ぅい絆で結ばれてますから!!!ね、先輩Vv」

「あ・あはは………」

「むう!!そうか!!貴様らのどちらかだな?ジムにこんな本持ち込みやがったのは!!!」

「え?どれどれ拝借仕ります………SABU〜薔薇達の秘密の蕾〜

「サブ?変わった本の題名だね?」

「あっ一歩お前はやめとけって……………………て遅かったな。あ〜こりゃ完全にアッチの世界に逝っちまったな。御愁傷さん」

「一寸失礼しますよ、先輩。…これ、ジムに落っこちてたんですか?だったら落とし主に返してあげましょうか…………オーーーーイ、誰かサ…ぶふぅ?!」

「馬ぁぁぁぁ鹿、こんなもんの題名大声で叫ぶんじゃねえよ!!!万が一会長に聞き咎められでもしたらどう申し開きすんだよ?!つうか板垣、お前随分普段と変わらない反応だな?少しはこんなもんが落っこちてる事に疑問を持てっっっ

「ぶっ!くっ!!っ木村さん苦しいです!!別に可笑しくないじゃないですか。僕が通ってた高校のロッカールームにも普通に落ちてましたってば」

「何ぃ?!俺様が高校中退してから、あすこはそんな恐ろしい所になっていたのか?!」

「(いや、こいつの常識がちょいと世間一般の斜上をいっているだけだから)高校はそうでも、ここでは少し異常事態だから。お前は親切心からやってるんだろうけど、これの持ち主もそういう風に捜されたらきっと傷付くだろうから、。ここは穏便に、。解るだろう?(と言うか解ってくれ)」

「え〜?そうですか?落とし物を持ち主に返すのに、一番手っ取り早い方法なんですけどね。(高校に落ちていたサブもその方法で無事に持ち主に返っていたのか?)木村さんがそう言うのなら………この本、何処に落ちてたんですか?」

「ああ、そこに(何時ものように転がって)いる青木がベンチの下に落ちてんのをみつけたんだよ」

「ああ、そこに(何時ものように理不尽大王に沈められて転がって)いる青木さんが第一発見者ですか〜。その時周囲に変わった所はなかったか言ってませんでした?」

「いや?俺様もよ〜、そこの猿が素っ頓狂な声上げやがるから何事かと思って駆け寄ったが、それ以外何も変わった所はなかったぜ」

「んんん〜?このジムで、その手の本を好みそうな奴は俺も知らねえしな」

「それじゃあ返しようが無いですね…」

「いや?俺様は一人そう言う趣味の奴を知ってるぜ」

「(うっわ〜悪そうな顔して笑ってやがる…大体言いそうな言葉は想像つくが、聞かねえと生け贄は俺になっちまうしな)誰ですか?鷹村さん」

ぃいっぽくぅ〜〜〜ん

「ああ…先輩………またそんな、まだ本を持ったままの格好で固まっちゃって

「あれじゃあ魔王に構ってくれって、全身で言っているようなもんだよな」

「………可愛いなあ〜〜〜」

「…………………板垣…………お前一歩ならなんでもいいのかよ…………て言うか、その愛しの先輩がピンチだぜ?」

「一歩くん、これは君のだろう?んん?どうだい?正直に白状したまえ。お兄さんは否定しないよ?君がそんな趣味だったとしても、俺様の尻の穴をホラないかぎりはな〜」

「ひ・ひぃぃぃ〜〜〜〜〜」

「ああ・先輩…、サブのカラー写真ページを目前に持って来られて、青いような赤いような黒い(!?)ような顔していても可愛らしいんだから、なんででしょうね?ね?木村さん!!

「否、そんな爛々とした光る眼差しで俺に同意を求められても…正直コメントきついからむしろそろそろ死相が出ている一歩を助けなくてもいいのかよ?」

「ああ?!そうです!!鷹村さんっ先輩を後ろからだっこするような感じで近付くなんて羨ましっ…じゃなくて、なれなれしすぎますよ!もう少し離れて下さい!!!」

「板垣……恐ろしい奴…。俺、最近彼奴がこのジムでもしかしたら一番大物じゃ無いかと思うんだよ」

「おお青木、復活したか…。彼奴、間柴とも普通に話せるらしいからな、絶対普通の人間じゃねえよな…………」

 

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 以上の事を垣間見ると、案外『普通のエロ本ではない』場合も(約一名を除き)鴨川ジムでは案外支障は無いようだ。

 

 この場合、一番美味しい匂いのするポジションは、絞められたまま大半を落ちている青木勝先生と思わせておいて、死相が出る迄責め苛まれる幕之内一歩の可能性大だ。

 

 この研究は、ネタでも無いのに一般書店に男性向け同性愛エロ雑誌を買いに行く、我々の貴い犠牲の上に置いて成り立っている事をお忘れ無きよう、切に願うばかりである………。

 

 我々の飽くなき観察は『脈々と受け継がれる(らしい美味しそうな)鴨川の血族』を完全に解明するまで続けられるであろう。

 

 『鴨川(美味しい)血族観察リポート〜実験付き〜』著:青木組〜より一部抜粋

 

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