「アレだったら、お前でも出来そうだよな」

「え?何をですか?」

 古ぼけた太田荘の一室でTVの目の前で横になりながら見ていた鷹村は、過去のボクシングファンを探しに来ていた一歩に声を掛けた。

「アレ。」

 ん、と鷹村が顎を向けた先の画面には、お茶の間の定番番組である仮装大賞が写し出されていた。

 アレって仮装大賞の事かな?と山積みにされた雑誌を探っていた一歩は画面に注意を向ける。

 白いモノが画面の中央で上がったり落ちたりしていた。

 たらり…と一歩の背を、嫌な感触がなぞった。

 僕でも出来そうって、もしかして、あの力技で胴上げされている小柄な彼の役所だろうか?

 画面の中の仮装内容は、数人の男達が、小柄な男性をご飯に見立てて力技で胴上げし、炒飯を作っている所を模しているようだった。彼等の前には段ボールで作った黒い大きな中華鍋があり、その向こうで、小柄な男性の姿が飛んだり消えたりしていた。

(う・うわ〜、酔いそう…だな……)

 画面を通して見ても、ご飯役の人は軽く2m以上は宙に舞っていた。

「否、僕はあの人より小柄でも無いし、筋肉も付いてますから、それなりに重いですよ」

 だからあの人数で胴上げされたとしても、あんなに高くは………顔の端を引きつらせながら、一歩はなるべくにこやかになだらかに否定する。

 それでも嫌な感覚は消えなかったが。

「ん?珍しく察しがいいじゃねえか。もしかしたら俺様は土台の方の事を言っていたかも知れ無えじゃねえか」

「あ、そうか、そうですよね。身体を鍛えてるんですもん。土台の方の事ですよね」

 一歩はほうっと肩をなで下ろした。もしかしたら鷹村が面白がって、明日ジムでアレを真似すると言い出すかも知れないと恐れていたのだ。

「俺様は察しがいいと言ったんだぞ。つまりはお前が正解」

 ふっと視界が陰る。恐る恐る顔を上げるとそこには、実に質の悪い笑みを浮かべた鷹村が何時の間にか立っていた。

「うっひゃあぁ?!」

 鷹村は小脇に腕を回し軽々と一歩を持ち上げる。一歩は急の浮遊感に心もとない声を上げてしまう。

「俺様だったら、一人でも軽々とあの高さに放れるぞ!!!」

 ガハハハハッと胴間声で笑う振動が直で来た。

「ままままってくださっ………此処天井低っ!!!!!」

 一歩の断末魔は、太田荘の薄い壁を突き破り辺一面に響き渡った。

 

 

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